晩ご飯の後片付けをするケンタ。ケンタが泡立ったスポンジでお皿を洗い、水をはった横のたらいに入れてお皿をすすいでいく。一人でご飯を食べているケンタにはいつものこと。いつもは、無性に悲しくなったり、なぜかわからないけれど、イライラすることもあるのに、今日は同じことをしていても、まったく違う気持ちでいる。
だって、ネッシーが横にいるんだもん。
そんなケンタの様子を横から見ていたネッシーは、泡立つシンクが気に入ったと見えて、頭からポシャンと入るとお皿をかきわけスイスイ泳ぎ出した。スイスイ泳ぎ始めると、不思議なことに、すぐさま、シンクの中は泡がもくもく立ってきて、ネッシーは顔まで泡に包まれてしまう。泡の中にネッシーの目だけがキョロキョロしている。ケンタはおかしくなって笑いながら、ネッシーの頭にお湯をかけてあげた。
泡まみれのネッシーはのそのそと這い上がってきて、体をグルグルっと数回転ねじってから、思いっきり体に付着した泡と水滴を吹き飛ばし。今度は、ケンタの顔に思いっきり泡と水しぶきがかかる。
「ひゃあ。。」とケンタがそれを払って、「ふふっ」と笑いながら泡をぬぐう。
ケンタが叫んだ。
「ネッシー、お風呂に入ろう!」ネッシーが笑って、楽しそうにおしりをふった。

湯船でもネッシーはすいすい気持ちよさそうに泳ぎ回る。ケンタはそんなネッシーにお湯をかけたりしていたずらする。ネッシーもおかえしに、体を前足や後ろ足を跳ね上げて、ケンタの顔にお湯をかける。
ケンタがお湯から上がって体を洗っているときも、ネッシーはしばらく湯船で泳いでいた。ケンタが髪を洗ってネッシーを見ると、頭をヘリにもたせ掛けてはいるが体がふにゃふにゃに柔らかくなって顔を真っ赤にして漂っている感じ。のぼせてしまったのだ。
「ネッシー!大丈夫?」慌ててケンタはネッシーを湯船から出してあげるが、ぐったりしてベロがだらっとしている。ケンタは洗面器に入れるが、ちょんちょんとつついてもなかなか起き上がれない。
心配したケンタは、ネッシーをすぐに冷まさなければ、と思って、ネッシーの入っている洗面器に思いっきり水を入れ始めた。一瞬、パッと目を見開いたネッシーが、その数秒後、いきなり洗面器からジャンプして、また湯船に入ってしまった。そう、ネッシーは冷たいのは苦手なのだった。
「え、ゴメンゴメン、ネッシーは冷たいのが苦手なんだね。。」とケンタ。

お風呂から上がった二人。ケンタが体をふく横で、お風呂からあがったネッシーは、また自分で体をねじって水滴をはね飛ばす。でも、あんまりにねじりすぎると、目がくらくらしてふらふらとよろけている。なんというか、世話が焼けるのである。

お風呂から上がったケンタはネッシーを方に乗せて冷蔵庫へ向かった。ケンタは冷蔵庫から炭酸飲料を出して、コップに入れて飲んだ。
その様子をネッシーがじっと見つめて、飲みたそうにしている。
ケンタは、別のコップを取り出すと、ネッシーのために炭酸を少し入れて、テーブルの上に置いた。
ネッシーは、ケンタの肩からジャンプしてテーブルの上に降り、首をちょろっと長くして、コップの中の炭酸をペロッと一口。コップから一度顔を上げたネッシーの目が♡マークになっている。
どうやらとても美味しかったらしい。ケンタがつぎ足すと、ネッシーは頭をコップの中に突っ込んで、すぐに飲みほしてしまった。次にコップから顔を出したネッシーは、まだ欲しいとばかりに、ケンタをじっと見つめる。その視線はかなり殺気立っている。ほんのり顔も少し赤いが、ケンタは気づかなかった。
ネッシーの無言の圧力に、ケンタはどんどんコップに炭酸を注ぎ足した。ネッシーは勢いよく、ほとんど体を突っ込むようにしてコップの中に体を埋めて飲んでいる。何度つぎ足しただろう。あっという間にペットボトルの炭酸を飲み干してしまった。
「もう、終わりだよ、ネッシー」空のペットボトルを見ながらケンタが話すと、ネッシーがコップから顔を上げた。
「あれ?」
ケンタは、出てきたネッシーの顔が赤くてトロトロしてさっきのようにのぼせた目をしていることに気が付いた。ただ、さっきと少し違って、ぐったりとしているというより、「クオーン、ヒック・・・」と言いながら、よたよたとテーブルの上を歩きまわっている。けれどすぐさまバランスを崩してテーブルの向こうへ落ちてしまった。
「ネッシー!」
ケンタが慌てて、テーブルの向こうを見ると、ネッシーは痛がる様子もなく「クオーん、ヒック・・」と変な声を出しながら、笑っている(?)。
「ネッシー!! どうしたの、どうしちゃったの?」
そうケンタが言う間に、みるみるネッシーの体が巨大化して、よくわからない変な歌を唄いながら、クネクネと踊り始めた。また天井につっかかるぐらいの体になって、でも足はまったく定まらないから、あちこちに体をぶつけながらドシドシと踊りまわるネッシー。家の中がめちゃめちゃになっちゃいそうだ。
あっけにとられたケンタ。
「もしかして、炭酸でよっぱらっちゃったの===!!」

巨大化したネッシーが踊っている。ネッシーの酔っ払った状態に、ケンタは手がつけられない。
途方に暮れてどうしたら良いかわからないケンタは、もう半泣き状態になってしまった。

「ネッシー、もう静かにしてよー。二階に上がらなきゃ、もうすぐママが帰ってきちゃうよ。」
 二階に上がらせようとネッシーの巨大な体を押していたケンタも、あまりの重さに階段の手前で半ばあきらめかけてしまう。
と、いきなり、巨大ネッシーがドテっと倒れて、「グワゎー、グワぁー」といびきをかきながら階段の踊り場で寝始めてしまった。ネッシーは騒ぎすぎたのか酔いが回ったらしい。
トドのような体でいびきをかいて寝ているネッシーを見ながら、ケンタは最初、どうしていいかわからなかった。でもこのままではまずい!どうしようか考えようとしても、考えられない。だって、隠すなんて無理だよ、と頭の中でガンガン声がする。
そこへ、門が開く音がした。
「やば! ママだ。」
無理なんて言っていられない。ケンタはネッシーをどう隠そうかと、もう一度ネッシーを見た。
「あれ?」
ケンタは、ネッシーのいびきが少しずつ小さくなることに気が付いた。と同時にネッシーの体も少しずつ小さくなっていっている。
「今だ!」
ケンタは、ぬいぐるみくらいになったネッシーの体を持ち上げて、階段を一気に駆け上がった。
自分の部屋のベッドの上にのせて布団を掛ける。次の瞬間、玄関が開く音がした。
母親「ケンちゃん、ただいま」

危機一髪だった。
「おかえり、ママ」いつもと同じ声を装う。
「ケンちゃん、ご飯食べた? お風呂は?」ママがいつもと同じように聞いてくる。
「ぜんぶ済んだ。ママ、ぼく、もう眠いから寝るね」
「そう、えらいね、おやすみ」といつものママが言った。

うん、これなら大丈夫。ベッドの中のネッシーもいつものサイズに戻っているようだった。ケンタはすべてうまくいったことに大満足していた。
ケンタは、酔っぱらったネッシーが眠るベッドに自分も潜り込んで、電気を消した。

 下では、ケンタの母親が、テーブルの上の二つのコップをじっと見つめていた。