第4話 ネッシー学校へ行く。

 いつもは、ケンタが学校から帰ってくるまで、ゴロゴロとしているネッシーなのだが、今朝は様子が違う。
ランドセルに教科書を詰め込んでいるケンタの前で、ネッシーはクルクル回っては、ケンタの前ではしゃいでいる。
「学校に行くんだから、今は遊べないよ。」とケンタがいくら言っても、ネッシーはベッドに行く気配もない。そこにママの声がした。
「ケンちゃん、学校遅れるよー!早くしなさい!」
「わかってるよ」と、ちょっとぶっきらぼうに話す。
ケンタがランドセルを背負って、じゃあね、とネッシーに声をかけようとすると、ネッシーはぴょーんとケンタの肩に飛び乗って、頬をすりすり。
「やめてよ、ネッシー♡♡、学校に行くんだから・・」とちょっと嬉しそうな、でも少し困ったようなケンタ。今日は学校を休んでネッシーと遊びたいなあ。。心の声が誘っている。

「ケンちゃん!!、ほら、何しているの!!!」ママのすごい声がして、ケンタは現実に引き戻された。
ケンタは「やべっ」とネッシーを見た。ネッシーはシュルシュルっと小さな芋虫みたいにケンタのポケットに忍び込んだ。ポケットから顔を出したネッシーは、イタズラっぽい目をクリクリさせてケンタを見つめている。
ケンタは、やっとネッシーが何をしたいのかわかった。そして一気に階段を駆け下りた。

 学校に行くケンタのポケットからネッシーの顔がちょこんと出て、あたりを楽しそうにくるくる見渡している。
「ネッシー、ねえ、みんなに気づかれないようにしてよ。わかった?みんな驚いちゃうからね、ネッシー、分かってる?」
とケンタが小声でネッシーに話しかける。ぶつぶつ言っているケンタはやっぱり変だ。けげんな顔をしながらケンタを見て通り過ぎる子、数人の同級生はさすがにケンタを見て立ち止まった。ネッシーは慌ててポケットの中に忍び込んだ。
「なんだよ!」とケンタがその子達に明らかに乱暴な声を出すと、子供たちとネッシーも一斉にびくっとした。子ども達はさっとケンタの横を通り過ぎていく後ろ姿を横目で見ながら、ケンタが舌打ちした。
ネッシーがケンタの様子を不思議そうにみつめている。同級生に対するケンタの態度は、家でのものと、ずいぶん違った雰囲気だったからだ。

 教室の中でも、ケンタはなんとなくむっつりとして、一人机に座っている。話をする友達がいない様子なのだが、今日のケンタはさらに違う。そわそわして落ち着かないのだ。それもそのはず、ネッシーがポケットから顔を出したり、ひっこめたり、全然じっとしていないのだ。ケンタは、クラスの子にばれないように、ポケットをさっと押さえるが、自由に小さくなれるネッシーはその指の隙間からシュルシュルと出てきてしまう。ネッシーはあわてて反対の手でさらにネッシーを押さえ込もんだり、一人でポケットに手を入れたり出したり・・、はたから見ればけっこう変な感じなはずだ。

 そんなケンタの前に、ハーフの女の子が立って、いきなり彼女がケンタにどなった。「ねえ、昨日、掃除さぼったでしょ!」
ネッシーに気を取られていたケンタは、ドキッとしてその子を見上げた。金髪で青い瞳に少しそばかすがある女の子。
 ちょっとびっくりしたケンタも気を取り直して、「うっせーなー、用事があったんだよ」と乱暴に言い返す。
 しかし彼女は「いつもそんなこと言って。ちゃんとやることやらないとだめじゃない。」と、ひるまずケンタにたたみかけた。
 ケンタ「うるせーなー!!」というケンタのどなり声に、机に這い上がろうとしていたネッシーも驚いてポケットに隠れた。その瞬間、ケンタは、ネッシーのいる左のポケットでぴりっとした痛みを感じたような気がした。

 ほかの女の子たちが彼女の名前を呼ぶ。「エミリー、ねえ、ねえ、これ見て」
 話しかけられて、彼女はその子達のほうへ向かった。そう、彼女の名前はエミリー。

 退屈な授業が始まるが、ケンタはやはり聞いちゃいない。いや、いつも聞いちゃいないが、今日はさらにひどい。だって、ネッシーがポケットにいるのだから。
 ケンタはポケットの中に手を突っ込んで、ネッシーとじゃれている。しばらくそんなことをしていると、じゃれるのに飽きたのか、、ネッシーはケンタのポケットから、小さな芋虫のような体になってニョロニョロと机の上にはい出てきてしまった。
 ケンタはどきどきして辺りを見回すが、誰もケンタの机を気にしている様子はない。ただし、エミリーを除いては、なのだが、ケンタはそんなことにもまったく気づかない。
 ネッシーは机の周りをニョロニョロしながら教科書やペンケースの周りを動き回った後、今度は机の足をつたって床に降りると、窓辺のほうに向かった。

つづく