その4 ネッシー復活
ケンタは男子トイレの個室に駆け込んで鍵をかけた。
手のひらにいるネッシーに必死に声をかけたり、息を吹きかけて体を膨らまそうとしたり。ところが、ネッシーはケンタから息を吹きかけられるたびに、目をブルブルっと震えさせてびっくりした顔をしている。
どうやら空気が入って膨らむというのはなさそうだ。それでもケンタは一生懸命だ。
「ネッシー!しっかり!ネッシー、大丈夫?・・」
ケンタは指先でネッシーの体をなで始めた。おせんべいみたいに平べったい体の、頭の部分や、体の縁や、お腹や、そして首筋と思われるところなど。。。ネッシー目がケンタの指先を追っていく。
ケンタの指先がネッシーの首筋をなで始めたとき、ネッシーが「ククククク・・・」と声を出した。ケンタはネッシーが反応しているので、さらに首筋をなでると、また「ククククク・・・」と言いながら、身をよじり始めた。そして、ネッシーの体がケンタの手のひらの上で、みるみる元の丸くてぷにゅぷにゅした体に戻っていった。

「びっくりしたよ。ネッシー。もう死んじゃったかと思ったじゃないか!!」
手のひらの上でちょこんと座っているネッシーに向かって、ケンタがひどく怒って言った。たしかに、踏みつぶされた瞬間、ケンタは本当にネッシーが死んじゃったと思ったのだから、このくらい怒っても仕方ないかも知れない。
ネッシーは、ちょっと困った顔をするも、ニコニコしながらケンタを見つめる。そしてケンタの手のひらをほほでスリスリしていた。ネッシーのイタズラっぽい目がくりくりしている。
「くすぐったいよ。。ねっしー・・」ケンタの口調からは嬉しい気持ちを抑えられない。

ケンタは話題を変えた。「ネッシーは金魚好きなんだね。」(それに首筋をなでると、いろいろありそうだ・・・)ケンタはそうも思った。

チャイムが鳴った。
ケンタ「終わった、ネッシー帰ろう」
ケンタはネッシーを右手にくるんで右手ごとポケットに入れると、トイレから出てきた。
ケンタ達が廊下に出ると、そこにエミリーが立っていた。
「なに、隠してるの?」エミリーはすべて知ってるふうな口調で言う。
ケンタは驚いたが、なにもないように憮然として言った。
「別に」
でもエミリーはさらに続ける。「私見たわよ、ポケットの中のもの」
ケンタは一瞬ひるんだ。
「えっ!?」

エミリーがなにか言おうとしたとき
「うっせーな!」とわざと威圧するような口調でエミリーの言葉を遮った。
このままエミリーと話したら、ネッシーのことが本当にバレてしまう。
しかし、エミリーはじっとポケットを見ていて動かない。ポケットの中でネッシーをくるむケンタの手に汗がにじむ。

ケンタはバツの悪い感じになって話題をそらす。
「あっ、俺、おなかが痛くなって帰っちゃったから、帰るって先生に言っといて」
ケンタはエミリーと目を合わさず、さっと教室のほうへ歩いて行く。
エミリー「ケンタくん!」エミリーが後をついてこようとしたとき、
「ついてくんなよ。ハーフ」とケンタが強い口調で言った。
いつもムッとしているとは言え、普段のケンタはそんな言葉を口にすることはなかったのだったが、今はネッシーを守ることしか頭にない。
エミリーは足を止めて悲しげにケンタを見つめている。

「イタッ!」
ホッとするケンタの右手に、一瞬電流が走ったような痛みを感じた気がした。それはポケットの中でネッシーをくるんでいた手だった。
第4話おわり