シーン3 踏みつぶされたネッシー
ケンタは呆然と先生の右の足下を見ていた。あまりに一瞬のできごとにケンタはただ、たちすくんでしまった。先生の右足の裏の一点をみつめながら・・。
そこではきっと、もうネッシーは踏みつぶされてしまっているはずだ。
(きっと死んじゃってるよ・・・)、ケンタは思った。せっかくできた、へんてこだけど超可愛い友達がこんなに簡単にいなくなってしまうなんて・・・。
「ねっしー・・・・・・」
とケンタは振り絞るような声を出していた。もう、ほとんど泣きそうになった。
ネッシーを踏みつぶしているとはまったくりそんなケンタに先生が一言二言話しかけてみたが、ほとんど先生のことなど気にも留めず、うなだれているケンタに、先生のほうがあきれ果てて
「ケンタくん、あとで先生のところにいらっしゃい」と先生は言って黒板のほうへ戻っていった。
「クスクス・・」と教室に失笑がもれる。エミリーの顔が少しゆがんだように見える。
ケンタはそんなことは耳になど入っていない。ただ、先生が去った後の床をじっと見つめた。
端から見れば、ケンタは怒られて、じっと下を向いてしょげかえっているように、も見える。
ケンタが下を向いている視線の先には、ぺちゃんこになったネッシーが床に張り付いていた。薄透明なピンク色で、右に左に小さく動いている。ぺちゃんこのネッシーの目が床の上でキョロキョロと動いているのだった。
「(あっ!・・)」ケンタは声にならない声をあげて、心の中で叫んだ。(生きてる!!!!)
ネッシーは薄く引き延ばされてヒラヒラした状態ながら、立ち上がろうとしている。
しかし、あまりに薄っぺらになって、向こうがみえるほど透けて薄くなってしまっているためうまく立ち上がれない。
ケンタはそのひらひらしているネッシーを手のひらでそっとネッシーを包んだ。
ケンタの手の中で、ネッシーの顔が笑っているような、でも困っているような顔を見せた。
「先生、ぼく、トイレに行きたいです」
ケンタは左手と自分の胸でそっとネッシーを包んで、右手をあげて先生に言う。さきほどとはまったく別人のようだ。
「はいはい、どうぞ。ついでに顔も洗ってらっしゃい」
先生はケンタを一瞥しただけで、皮肉を言った。もう、ケンタの急変ぶりにつきあってられないと言わんばかりに。
ケンタは即座にトイレに走っていった。
教室はその様子に少し失笑が漏れた。
エミリーは、ネッシーとケンタの一部始終をじっと見ていた。
つづく